【BIM/CIM2021②】BIM/CIMの知識、技能体系を明示 自動化で大幅な効率化
国土交通省は、2023年度に小規模を除くすべての工事にBIM/CIMを原則適用する方向で準備を進めている。この大変革の司令塔となるのがBIM/CIM推進委員会であり、基準や要領、教育研修などさまざまな検討を進めている。矢吹信喜委員長に現在の取り組みと今後の展望を聞いた。
国土交通省BIM/CIM推進委員会委員長 大阪大学大学院工学研究科教授
ビルディングスマート・ジャパン理事 矢吹信喜氏に聞く
――委員会の活動状況を教えてください
「BIM/CIM推進委員会は『基準要領等検討』『実施体制検討』『国際標準対応』『利用促進』『建築分野における検討』の5つのワーキンググループ(WG)を設置し、ガイドライン、3次元モデル作成要領、人材育成など幅広いテーマを検討している」
「そのうち、CDE(共通データ環境)は、設計、工事の標準的なデータ管理方法と手順を示すもので、受注者にぜひ理解してほしい内容だ。発注者のリクワイヤメント(要求事項)に沿うモデルをいつ誰がどう作り、提供するかを定めている。国際標準(ISO19650)にも対応する」
「リクワイヤメントは『円滑な事業執行』『基準要領等の改定に向けた課題抽出』の2つを目的に運用してきたが、21年度から『円滑な業務執行』に限定する。また、業務と工事の要求事項を一体で表記していたのを、21年度から業務と工事に分類し、発注者が選択しやすくした」
「従来の『CIM導入ガイドライン』は『BIM/CIM活用ガイドライン』へと全面再編し、編集内容をダム、橋梁、トンネルなどの“構造物モデルの作成”から“事業の実施”へと主眼を移した。各業務のワークフローのうち、BIM/CIMを活用する場面ごとに必要な詳細度(LOD)や属性情報を示し、実務で使いやすくしている。例えば橋梁の詳細設計では現地踏査や協議資料作成、景観検討、設計図などBIM/CIMを活用する場面ごとにモデルの要件やLODを明示した」
――原則化を進める上でポイントは
「原則化には人材育成が重要になる。『BIM/CIM教育要領案』を改定し、習得するスキルを『入門編』『初級編』『中級編』『上級編』の4つに分け、知識や技能の体系を位置づけた。20年度は入門編と初級編を対象に受発注者共通研修テキスト、パワーポイント、サンプルモデルなどの教育訓練コンテンツを作成した。初級編はガイドラインの理解に力点を置くなど各カテゴリーで習得すべき内容を明確化し、次のステップとなる資格制度につなげたい」
「また、BIM/CIMの活用効果の高い契約方式として期待するのがECI(施工予定技術者事前協議)だ。施工者も詳細設計の作成に加わることで、工事の課題を事前に減らすフロントローディングにつながる。施工者のノウハウを存分に生かせるため、今後の普及に期待したい」
――設計者、施工者は原則化にどう対応するべきか
「22年度はすべての詳細設計と大規模工事にBIM/CIMが原則適用される。23年度は小規模をのぞくすべての工事が原則化されるため大変革の年となる」
「設計者はソフトをBIM/CIMに切り換えることで対応し、特に若手は移行しやすいだろう。設計が対応すると、施工段階の設計照査や設計変更、納品も3次元で行うことになる。施工者は最初は本社のBIM/CIM推進部門などで対応できても、件数が増えれば現場でも使える人材を増やす必要があるだろう」
「ノウハウを一度蓄積すれば導入を進めやすくなるため、BIM/CIM推進委員会がテキストなど教材を整備し、全体のレベルを底上げしたい。21、22年度は移行に向けた重要な準備期間になる」
――導入により得られるメリットは
「設計者には、設計ミスの圧倒的な減少につながる。特に積算のための数量計算が楽になるだろう。2次元CADでは平面、立面、断面の図面から数量を拾い出す必要があるが、BIM/CIMは瞬時に計算できる。地図上に路線線形を引くだけで切土・盛土量を自動的に算定する機能もあり、土量のバランスを検討するのに有効だ。設計変更が出ると徹夜で計算し、分厚い数量計算書を作成することもあるが、こうした作業もすぐに処理できるなど、あらゆる面でメリットを得られるだろう」
「施工者も大きなメリットがある。例えば鉄道や高速道路など民間発注者の工事は出来形検査の回数が多く、部分払い金を受けやすい環境にある。ただ出来形検査の際、2次元図面では形状の確認が大変であり、コンクリートや土の出来形数量計算も時間がかかる。それらがBIM/CIMでは瞬時にできる」
「BIM/CIMを使った建設現場の遠隔臨場も登場し、現場から送られた映像に位置情報を持つ3次元モデルを重ね、精度の高い検査が可能だ。現在PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)で検証が進められており、今後一気に普及することも考えられる」
――発注者のメリットは
「当面は工事の工区割りに役立つが、最もメリットが大きいのが維持管理だ。例えば構造物を補修するとその部分の図面を残しても全体では更新しない。そのため現状のAs-is(アズイズ)モデルや完全な全体図面が存在しないのが問題だ。BIM/CIMなら常に最新のモデルを活用できる」
「5年に一度の定期点検の結果を3次元モデルに埋め込み、時間軸のある4次元モデルで管理できる。そうすることで事故が起きたときの原因究明にも役立つ。最終的に発注者にメリットをもたらすのがBIM/CIMの特徴といえる」
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